
もう当たり前になって、死語となりつつある「ワイド(横長)テレビ」。
最近、JRのドアの上にある車内モニターがワイド液晶になっていて、ここまで浸透してきたんだなぁ・・・なんて感慨深い思いをしました。
ワイドテレビ画面の横縦の比率をご存知ですか?
正解は16:9です。ちなみに一昔前のテレビは4:3でした。
なんでこんな中途半端な比率なのか?
1980年ごろNHKが次世代の高精細テレビジョンシステムを研究しており、その文献によると、人間の視野を脳で感じるときの縦横比が、横16:縦9であることからこの比率にしたとありました。
あと、その解像度については、大画面映像が人間の視野全体になるぐらい近くで見ても画素が見えない解像度が必要とのことです。
これは、例えばサッカーの試合で左のゴールから右のゴールまでの全フィールドが画面に映し出されて、カメラはボールや選手を追って撮影するのではなく、固定したまま・・・観ている人があたかも観客席にいるかのように自分の目でボールを追って見ることを想定しています。
ボールを持っていない選手も目に入ってきますし、リアルな音響設備があればそれは実際に観戦しているかのような臨場感バツグンでしょう。
実は私、1983年~ソニーのハイビジョン開発プロジェクトの一員でした。
私が担当したのは、まだ世界に1台も存在しないハイビジョンカラーモニターの開発。
当時はもちろん放送はされていないし、カメラもVTRもない・・・要するに信号源がどこにも無いのです。確かスタジオカメラの試作品が出来つつあったものの、モニターの開発用に貸し出してくれる余裕はあるはずがありません。
まず私がやったことは、信号発生器の自作。
NHKのHigh Definition Video System(今のハイビジョン)の仕様書と格闘しながら、デジタル回路を駆使して静止画ながらいくつかのテストパターンを発生する回路を設計、手作りで製作。
モニターが無いので、この信号発生器が正しく動作しているかも定かで無い・・・ただ測定器による信号波形が仕様書通りであろう!と思い込むことから始まりました。
私は信号系回路設計と、画面上の色ずれを補正する仕組みの開発を担当。
ブラウン管のカソードをドライブするビデオ回路最終段では、数十ナノ秒で十ボルト以上もの変化をドライブしなければなりません。
色ずれ補正も従来のブラウン管なら裏に小さな磁石を貼り付けて何とかなっていたのに、解像度が格段に良くなるとほんの少しの色ずれが画質劣化の致命傷になります。
人間の脳は、画像の中の物体のエッジ部分を強く感じてそこから遠近感や臨場感を感じ・・・詳しい話は長くなるので別の機会に譲るとして、話を戻すと・・・
磁石とアナログ回路では限界と思い、当時8ビットしかなかったCPUを採用、CPUボードそのものを設計しながら機械語でのプログラミングの日々が続きました。
何ヶ月が経っただろうか・・・見慣れない32インチのワイドブラウン管が木枠に取り付けられ、高圧部品も裸のまま運ばれて来ました・・・こちらで開発した回路の出力をブラウン管に差込み、そして例の信号発生器を接続、数人の開発者が見守る中、オ・ソ・ル・オ・ソ・ル電源オン。
高圧が通電するときの高圧ケーブルの揺れと、デガウスの迫力ある音が収まるころ、画面に薄っすら現れたのが設計どおりのテストパターンだったときは、足が震えるほど感動したものです。
ハイビジョンカラーモニターが初めて映った瞬間でした。
デモ用のハイビジョンシステムが揃い、放送局に機材を搬入してみると、カメラマンは従来どおりアナウンサーや女優さんの顔をアップで撮ってしまう。
髪の毛の1本1本、毛穴ははっきり、化粧の具合までわかってしまう・・・女優さんたちには大変不評だったのもハイビジョン普及遅れの要因に違いありません。
あれから20年以上経った今、やっと家庭でハイビジョンが普通に観れるようになり、ハンディカムもハイビジョンになってきました。
ブラウン管は姿を消し、大画面平面テレビがあたりまえ・・・色ずれ補正の技術も不要・・・JRの車内モニターもワイドになりつつあります・・・
あのころの苦悩が今やっと花咲いて、感無量です。
でも正直、遅すぎ!!